愛し沼の底

歪みかわいいコレクション

猫の居る部屋

生活の臭いがそこかしこに漂っていた

黴臭い部屋干しのタオルがすだれのようにかかっている

 

初めて訪れた部屋なのに生活は計り知れる程度の

つまらない男に身を任せた

その行為は計り知れる程度の面白みしか得られなかった

安板のベッドはきいきい鳴いた

 

男の部屋には食パンのような猫が居た

それは私よりも遥かにその男の内部に住んでいるのだろう

あたたかで愛に満ちているようだった

初対面の相手のうめき声におろおろ歩く優しさがあった

 

眠れぬ私は猫に詩を読んだ

詩を読まぬ男に飼われる猫へ

産まれてはじめて詩を聞かせてやった

猫の体温は人より高いらしい

 

猫は男でも女でもかまわず

暖かな部屋と食べるものと

自分をかまう手があればそれで良いようだった

 

傍に眠る男の寝息よりも、ずっと静かな声で

それに似つかわしくない強い言葉を吐き出した

しかし猫には自分をなだめる声として届いている

 

猫の毛の先から香ばしい匂いが漂うほど

虚無がめりめりと押し広げられていく

生きてさえいればいい生き物になれないから

私は今日も詩を読んでいると悟っても

なお裸の人肌に猫の毛がからみついてくる

 

「お前の心の臓をくりぬいて一人ということを知れば、

あの男は詩の一つでも詠うようになるのかしらね」

 

それとも他に拾う猫を探すのだろうか

ただ生きてさえいればいい

生き物の心はわからない